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広島高等裁判所 昭和29年(ネ)116号 判決

控訴人(原告) 久保正毅

被控訴人(被告) 国

主文

原判決を次のように変更する。

別紙第一目録末項の土地中三畝十七歩(別紙第二図面中赤線で劃された部分)に対して被控訴人がなした買収処分が無効であることを確認する。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを十分しその九を控訴人その一を被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決を取消す。別紙第一目録記載の土地に対し被控訴人がなした買収処分の無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は控訴人において別紙第一目録末項の字芝尾所在の田二反九畝一歩中三畝十七歩は買収当時も現在も家屋の存在する宅地でありこれを不在地主の小作地として買収されたものであるが右は行政処分に重大且つ明白な瑕疵がある場合であるから右買収処分は全部無効であると述べ、被控訴代理人において右控訴人主張の三畝十七歩の土地が買収当時から現在まで家屋の存在する宅地であることは認めるが直ちにこれを以て行政処分の当然無効を招来するような重大且つ明白な瑕疵と云うことはできない。この土地は公簿上も地目が全部田であり所管の西厚保地区農地委員会も買収計画を定めるに当り非農地が存在することを認識しなかつた。仮に買収処分が無効だとしても右一筆の土地全部でなく該宅地部分に過ぎないと述べた外は何れも原判決事実摘示と同一なのでここにこれを引用する。(立証省略)

理由

当裁判所は別紙第一目録末項の字芝尾第一八五八審の一二反九畝一歩中三畝十七歩(別紙第二図面中赤線で劃された部分)を除いた別紙第一目録表示の各田、畑、宅地等に対してなした控訴人主張の被控訴人の買収処分は当然無効とは言い難く、この部分に対する控訴人の本訴請求を失当と判断したがその理由は原判決理由中の説示と全く同一なのでここにこれを引用する。当審証人藤本茂、坂恂助の各証言によつては右認定を左右するに足らない。

而して右芝尾第一八五八番の一なる一筆の土地が所謂不在地主の有する小作地として自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当するとして所管西厚保村農地委員会が樹立した買収計画に基き被控訴人が昭和二十三年十二月二日買収処分を行つたことは当事者間に争なく、更に右土地の一部である別紙第二図面中赤線で劃された部分三畝十七歩が買収当時から現在まで宅地であることも当事者間に争がない。然らば右宅地部分についてなされた買収処分は右法条によつては買収をなすことができないものを対象としてなした違法があり、その瑕疵は極めて重大且つ明白なものであること勿論で右行政処分を当然無効ならしめるものである。而して右買収処分は一筆の土地二反九畝一歩に対してなされたものであるが右宅地はその中の小部分三畝十七歩であつて他の田地部分と区劃し得るから右一筆全部の買収処分が無効となるのでなく右宅地三畝十七歩の範囲だけの買収処分が無効となるものと解するのが相当である。

然るに被控訴人は右無効を争つているから控訴人が右部分につき無効確認を求める利益を有すること勿論で控訴人の本訴請求中右宅地の範囲についての買収処分無効確認を求める部分は相当であるからこれを認容すべきである。従て原判決が控訴人の本訴請求全部を棄却したのは失当で右部分については変更を免れないから民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第九十六条、第九十二条、第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判官 植山日二 佐伯欽治 松本冬樹)

(目録省略)

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